新概念ピッキングレス・ダブルシリンダー錠
目次
1,
シリンダー錠とは
2,
シリンダー錠の欠点
3,
新型錠の構造
4,
新型錠の効果
1,
シリンダー錠とは
シリンダー錠とは,図1に示すような構造を持ちます.この錠はAに示すシリンダーと呼ばれる円筒状のパーツと,
E,Fに示すそのパーツに空いた穴に入り込むピンから成り立っています.シリンダーはJの本体にあいた
円筒状の穴の中に挿入され,回転することによって鍵を開け閉めするのですが,その回転をFのピンが妨げます.
この状態においてはシリンダーは回ることができず,鍵を開けることはできません.
図1 シリンダー錠閉状態
次に鍵を指した状態の図を図2に示します.鍵を指すとE,Fのピンは鍵に押されシリンダーの外側へと
移動します.この時,ピンEおよびピンFの境界が,AのシリンダーとJの本体との境界にぴったり合う
ように鍵は作られています.この状態においてはシリンダーの回転を妨げるものは何もなく,シリンダーは
自由に回転できるため,鍵を開け閉めすることができます.
図2 シリンダー錠開状態
2, シリンダー錠の欠点
次にこのシリンダー錠の欠点について述べます.
結論から言うとピッキングにより不正に開錠することが可能なのです.
では,なぜピッキングが可能なのか,そもそもピッキングとは何なのかという点を説明いたします.
まず,ピッキングに使われる道具にはMのピックとLのテンションがあります.ピックはEやFのピンを上下に動かすのに使い,
テンションはシリンダーを回転させるのに使います.ピッキングはまずこのテンションを回すことから始まります.
テンションをまわすとAのシリンダーは回りますが,ピンFによって回転が妨げられます,
しかし,シリンダーを回した状態でピックによりピンを押してやると
ピンEとピンFの境目がシリンダーと本体の境目にあったときに手ごたえに変化があります,
ピッキングをする人はその手ごたえを敏感に感じ取り,この図では4つの穴のピンすべてにおいて
ピンの境目とシリンダー,本体の境目を合わせてしまいます,そして最後のピンの境目があったとき
この錠は鍵を使わずに開いてしまいます.
もっと強引な方法もあります,たとえば非常に剛性の高いLのテンションを持ってきて
シリンダーを無理やり回した場合,ピンFがせん断し,シリンダーが回ってしまいます.
このような不正開錠の手段を破錠と呼ぶことにします.
図3 ピッキングにさらされている錠
3, 新型錠の構造
このピッキングや破錠を防止するためにはどうしたらいいか,と考えた時に,
シリンダーが1つしかない場合,破錠を防止するのは無理なのではないか,と考えました.
ではシリンダーが2つある場合はどうなるのか,一方が回ると鍵が開き,もう一方が回ると空かない,そんな鍵は作れないのか,
こうして考え出されたのが今回のシリンダーが二つある錠です.
では,その構造について説明します.
図4が新しく考えた錠のシリンダー部分です.
この錠にはA,Bと2つのシリンダーが備わっており,ピンがE,F,Gと3つあります.
ピンFはシリンダーAにくい込んでおり,シリンダーBで保持されているため,
シリンダーAとBは一体となって回転します.シリンダーBはJの本体に挿入されており,
ピンGとピンFの境目は本体とシリンダーBの境目にあっているため本体と
シリンダーA,Bは自由に空転することができます.これが錠が閉まっている状態です.
図4 新型錠構造図・閉状態
次に,図5に錠が開いている状態の図を示します.
鍵穴に鍵を挿入した場合,ピンEとピンFの境目がシリンダーAとシリンダーBの境目に一致します,
先ほどまでシリンダー2に食い込んでいたピンFは,こんどはシリンダーBとJの本体を固定します.
この状態で鍵を回すと,ピンがシリンダーBとJの本体を固定し,逆にフリーになったシリンダーAだけが回ります.
こうすることによって鍵の使用により回るシリンダーを選択することができます.
図5 新型錠構造図・開状態
ここで困ったことがおきます,
この錠は鍵を使用しない状態においてシリンダーが回るため,回転運動を鍵の開閉運動に使うことができないのです.
そこで次のような構造にしました.シリンダーAの後部を斜めに切り取り,
Cのかんぬきの先端がシリンダーBの斜めの部分と接触しています.
こうすることによりシリンダーAの回転運動をCのかんぬきの左右に動く直線運動に変換します.
この直線運動により鍵が開閉するようにしておけば,新型錠の完成です.
図6 新型錠構造図シリンダー完成
4, 新型錠の効果
3章では,新型錠の構造について述べました.4章では,なぜこの錠でピッキングや破錠を防止できるのかについて述べます.
まず,破錠の防止について述べます.
もう一度図6をみてください,この錠は鍵を指さない状態においてシリンダーBが本体に対して空転します.
そのため破錠しようとしてもするする空転してピンはせん断しません.
しかも,もしピックでピンを押してシリンダーBとJの本体を固定して破錠しようとしても,
ピンFをピンEより弱い材料で作っておけば,ピンFの方が先にせん断し,シリンダーはまた空転を始め開くことはありません.
これが破錠に対する対策です.
では次にピッキングの防止策です.新型錠はシリンダーBが空転するためにテンションをかけることができません.
シリンダーに回転モーメントをかけなければピンはピンの穴に引っかかることができませんから,ピックでピンを押しても
手ごたえを探ることができません,つまりピッキングは不可能であると思われるのですが・・・.
ここでまた一つの疑問がわいてきます.ピンを押し込んでからテンションをかけたらどうなるのか・・・.
ピンを押し込んだ状態においては,シリンダーBはピンFによりJの本体と固定されます.
この状態ではテンションをかけることが可能であり,つまりはピッキング可能となってしまいます.
この問題に対処するために図7のような改良を加えました.
ここで注目すべきはE,F,Gのピンにちょっと細い部分があることです.
この細い部分があることで,この鍵はピッキングができなくなります.その理由を述べます.
まず,この鍵をピッキングしようとする人は,最初にピンを押し込みます,そしてテンションをかけます.
このとき例えばE,F,Gの細くなったピンを押し込んだとします.
細くなったピンを押し込んでテンションをかけるとシリンダーの回転は細くなった部分で阻まれるためシリンダーは少し回転します
シリンダーが回転すると,当然穴の位置がずれます.
穴の位置がずれるとE’F’G’の太いままのピンは上下にずれることがができません.
ピンが穴に入り込むことができないため,ピッキングはできません.
次にE’F’G’の太いピンを押し込んだ場合,E,F,Gの細いピンはその細さゆえに引っかかることができません.
引っかかることができないということは,ピンを押してもスカスカの状態であり,手ごたえを探ることができません.
つまりこの鍵はピンの太さを変えることでピッキング不可能な鍵となるのです.
図7 改良型シリンダー機構
以上が新型錠のピッキングと破錠に対する対抗策の説明です.
長くなりましたが読んでいただいてありがとうございました.