”有明海の環境悪化の要因を探る”
久保田恵子
中原美保 寺田慶 渡邊枢 松本秀樹 岡本欣久1.はじめに
代表的な閉鎖性内湾である有明海は、近年、漁獲量の減少、水質の悪化、また更には干潟の減少など、環境悪化が顕著になって来ており、特に平成
12年7月には「大量の赤潮の発生」、平成13年1月には「ノリの色落ち」により莫大な被害が生じている。本セミナーではこのような有明海域の環境悪化の原因解明にあたって、まず、生物・水質・気象などの現地観測データの経年変化から、その基本的な要因を探ろうとするものである。
図
-1 調査対象領域(熊本新港周辺)図
-1は調査対象領域を示す。図中の6地点のうち、KM−12以外の5地点について底質特性(泥分、強熱減量、COD、硫化物)のデータを用いてクラスター分析を行った。その結果、沿岸部のSt.6、8と、沖合い部のSt.4、5、7がそれぞれ似たような底質特性を有することが分かった。そこで以下の生物・水質調査結果(1)の解析では、沿岸部と沖合い部とに分類し、分析を進めることにした。2.生物
生物班は調査項目として以下の
5項目・プランクトン沈殿量
・環形動物:ゴカイ
,イソミミズ(多毛・貧毛類)・節足動物:甲殻類
,フジツボ・軟体動物:ヒザラガイ
・ベントス
から、特に注目した軟体動物(図
-2)と環形動物(図-3)の経年変化について以下に述べる。図
-2 軟体動物とアサリの経年変化(St.4)この図より軟体動物は昭和
61年をピークに減少傾向にある。図
-3 環形動物の経年変化(St.4この図より環形動物は右肩上がりに増加していることが分かる。
2
-1 考察環形と軟体動物の生息環境(底質)について考察してみる。環形動物は適応範囲が広く、ゴカイ等は泥質を好んで生息している。それに対し軟体動物(特にアサリなどの二枚貝)は砂質を好む。よってこの関係より、底質の泥化が考えられる。また、水質・気象との関連について詳しく知るためにも、さらに調査方法・回数等を検討する必要がある。
3.水質
水質における調査項目は、水温、塩分、
pH、DO、COD、DIN、NH4-N、NO3-N、NO2-N、PO4-P、SSの11項目である。なお、すべて表層水のデータである。その中でも経年変化や場所による変化が大きい2項目について下記にグラフを示す(図-4、図-5)。沿岸部
(St.8)では特に夏場にリン酸態リンの値は高く、沖合い(St.7)に行くに従って低くなっている。同じ挙動を示すものに、窒素系化合物があり、河川からの流入が影響していると考えられる。窒素は分解の過程で酸素を消費するため溶存酸素との関係を調べたが、表層水のデータからは顕著な関連性は見られなかった。
3
-1 考察窒素類、リンは沿岸部で高い値を示し、沖合いにいくにしたがって低くなっていることがわかる。これは主にこれらの物質が河川から流入し、その後拡散や微生物によって分解されるためであると考えられた。
すべての項目において、その年の降雨量や日射量などの気象要因によって値に変動が見られるが、変動の原因は多くの要素が複合的に関連していると考えられるため、今回のデータだけではそれらが直接の原因であると単純には断定できなかった。
4.気象
雨量、日照時間、風向風速について、
84年から99年までの熊本気象台のデータを分析した。ここでは、顕著な変化が見られた雨量についてまとめた。図
-6 6〜8月の3ヶ月間の総雨量図
-6より、基本的には4、5年の周期を持つ。しかし、H3〜H5で2年しか空いてない時期があり、この変化がH5とH6の降雨量に影響を与えたと思われる。エルニーニョ現象について
エルニーニョ現象は、太平洋赤道域の南米沿岸から中央部の日付変更線付近にかけての広い海域の海面水温が平年に比べて数℃も高くなり、それが半年〜1年半程度継続する現象であり、数年に一度発生する。
H5
H6
図
-7 熊本の一日雨量の変化4
-1 考察気象観測資料からのアプローチによって、有明海沿岸域の環境変化は、一年を超える周期の変動(例えばエルニーニョ現象など)に伴う影響を加味しつつ、さらに調べなければならないことが分かった。実際に、エルニーニョの発生と台風の発生・発達それに伴う災害とが密接な関係を持つという報告が最近発表されている。(
10月9日、熊本日日新聞より)5.全体のまとめ
今回の調査では有明海の中でも限られた地域である熊本新港周辺のみのデータで環境悪化の原因について考えた。今回は生物、水質、気象のそれぞれのデータ分析が主で、その関連性をあまり見つけることはできなかった。しかし、実際にはそれらのデータの相互関係が重要であり、今後それについてさらに考えることが必要である。また、環境悪化は有明海全体の問題であることから、局所的でなく全体のデータ分析が必要であると考えられる。
<参考文献>
(1)財団法人
熊本開発研究センター「熊本港周辺海域干潟生物調査」(
S55〜H11)