地盤工学における廃棄物の有効利用

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もの・つくり・コン2001
出展作品













































































写真@ 供試体の作成


写真A 貫入試験


写真B 水浸養生



写真C 黒ぼく


写真D シラス


写真E おがくず(細粒)


写真F おがくず(粗粒)


写真Gしらす75%,黒ぼく25


写真Hしらす50%,黒ぼく50


写真Iしらす25%,黒ぼく75


写真J黒ぼく+おが屑(細粒)40g


写真K黒ぼく+おが屑(細粒)80g


写真L黒ぼく+おが屑(粗粒)60g


写真M黒ぼく+おが屑(粗粒)120g
 「リサイクル地盤」
 今回の研究において基盤となるキーワードは「リサイクル地盤」である。以下の内容を御覧になるに当たり、キーワードを意識しながら順を追っってご覧ください。
出展者
熊本大学工学部環境システム工学科3年
梅田尚宏 川口正之 島田陽介
はじめに

今回私達が取り組んだ研究のテーマは「地盤工学における廃棄物の有効利用」である。人によってはものつくりの観点から少々外れていると思われる方もいるのではないかと思うが、私達はリサイクルによって何かを作り出すという考え方を重視して取り組んだ。一般にリサイクルというと直接生活に関わるゴミのリサイクルというイメージをもたれる方が多いはずである。地盤いわゆる土に関してリサイクルを想像できる方はそう多くはいないであろう。しかしそのような一般的なイメージとは別に地盤材料としての廃棄物の有効利用は今後の日本や世界にとって非常に重要な課題であるとともに、このリサイクルの実現がもたらす工学的貢献は多大なものである。このコンテストを通して、今後さらに増加するであろう廃棄物や発生土をリサイクルすることによって新たな地盤をつくりだす基本的な考え方を多くの方々に理解してもらいたいと思う。以上より、今回私達がつくりだしたものは「地盤である」。地盤つくりはは緻密な調査・研究をもとに行われる、工学的に重要な「ものつくり」である。

 急激な経済成長から次々と土木構造物が建てられる大量生産・大量消費の時代を経て、現在は今あるものを大事にするという維持管理型の時代へと変わりつつある。わかりやすく言えばリサイクル社会であろう。このような世の中の動きから生じる問題は数多く、それは地盤工学においても近年最も注目されている研究の一つである。私達はそのようなリサイクル型・循環型社会に少しでも貢献できればと考え、実際にいくつかの廃棄物を使用した土質実験を行うことにより各廃棄物の特性を調べることが目的である。

現状(用語説明を含む)

人間活動の結果として排出される廃棄物や、建設工事によって生じる発生土は、近年増大の一途をたどっており、その処理・処分問題の解決はきわめて重要な課題となっている。最終的にはこれらの廃棄物や発生土を地盤内あるいは地盤中に受け入れざるを得ないが、処分のための適地を確保することが困難になりつつあることから、これらは避けて通ることができない地盤工学上の問題である。

 一口に廃棄物といっても、その種別は千差万別であり、一般廃棄物と産業廃棄物とに2分される。廃棄物排出量は現在、一般廃棄物が約5000万トン、産業廃棄物が約4億トン程度と推定される。一方、発生土は地盤の掘削時等に排出され、その量は年間約44億立方メートルに及んでいる。このような発生土等は、元来地盤として存在していた材料であるから積極的に再利用されるべきものであり、建設副産物とみなされている。副産物とは、目的とする産物の生産過程で付随して得られる他の産物のことであり、廃棄物とは自ら異なり、一般には有用物を副産物と称する。掘削時の発生土は建設系廃棄物ではなく、建設副産物としてアグレッシブにその有効利用が図られている。

固体系の廃棄物の埋め立てにおける問題点は、埋め立て中に材料分解、特に有機系廃棄物の腐敗等によってガスが発生したり、有害な浸出水が生じたりすることである。しかし、廃棄物中には一般の土砂材料と遜色のない材料特性を示すものも少なくなく、積極的な有効利用の道を図らねばならない。産業廃棄物中の建設系廃棄物は、高含水比の汚泥やコンクリート・アスファルト廃材などであり、それらの有効利用の現状は、コンクリート・アスファルト廃材の再利用率が70%あまりに及んでいるのに対し、リサイクル法制定後も建設汚泥については、その排出量1500万トンの内のわずか5%弱の再利用率という低さにとどまっている。

いずれにしても、廃棄物最終処分場の設置は年々困難となっている。最終処分場の残余容量は、現在のところ一般廃棄物で約8年分、産業廃棄物で約2年分とされている。廃棄物埋め立て地盤の跡地利用に際しては、対象とする廃棄物材料の現状と将来の変化の予測を行うことが肝要であり、従来の地盤工学上の調査手法や設計手法をそのまま適用できないこともあって、構造物の設計には慎重な配慮が不可欠である。


方法

建設廃土(工事現場から出る不用な土)としてのしらすと黒ぼくの有効利用について検討すると、どちらもそのまま利用すると問題があることがわかった。例えば,しらすでは耐磨耗性が低いことや、黒ぼくでは攪乱による軟弱化などがあげられる。また、2つの土の粒度(土粒子の大きさの分布状態)に注目すると、図1より,シラスの粒形は比較的広い分布を示しているので、締め固め特性が良いと判断できる。黒ぼくは細粒分が多く範囲がせまいので締め固め特性が悪いことがわかる。これらを考慮した結果,黒ぼくのせん断強度を増加させるために、シラスと黒ぼくを混ぜることと、双方に混合物(おがくず)を混ぜることで、含水比の低下やせん断強度の増加を期待するという2つの方法が考えられた。これらの効果については、CBR試験を実施してアスファルト舗装の厚さの設計に用いられるなど路床や路盤の強さを評価するために使われる設計CBRを求め、もとのシラスと黒ぼくの設計CBRと比較することにした。CBR試験の方法の概要としては、下記に示すとおりである。

 

@     用具の準備 

A     資料の準備:自然含水比状態

B     3層に分け各層67回突き固め

C     吸水膨張試験:浸水した供試対の膨張量を1248247296時間ごとに測定

D     貫入試験:貫入ピストンを1mm/分の速さで供試体に貫入

E     データ処理:CBRを算出するための荷重強さ―貫入量曲線の作成

F     CBR値の作成:CBRの角値を比較し、CBR値の大きさを決定


                

         

自然含水比 土粒子密度 コンシステンシー 強熱減量 均等係数 曲率係数 粒度組成 分類
液性限界 塑性限界 塑性指数 液性指数 れき シルト 粘土
% g/cm3 % % % % % % %
黒ぼく 277.2 2.349 229.5 307.9 78.4 0.6 42.5 26.1 0.85 0.0 3.0 36.6 60.4 OV
シラス 20.9 2.434 - - - - - 53.3 3.68 2.4 60.2 25.4 12.0 SF

結果と考察


黒ぼく(写真C)にシラス(写真D)を加えた土について

シラス含有率とCBRのグラフ(図2)より,シラスの含有率が0%(写真D)と25%(写真I)と50%(写真H)の点を結ぶと,ほぼ一直線でCBRは,0%に近い。しかし50%を過ぎたあたりからCBRは急増し,シラス75%(写真G)でCBRは25%,シラスだけの時は40%になっている。このことから,黒ぼくだけよりはシラスを加えることによって,土が荷重に対して強くなったことがわかる。

乾燥密度とCBRのグラフ(図3)からは,乾燥密度が高くなるにつれてCBRも高くなっているので,乾燥密度はCBRの高低に影響を与える。

二つのグラフを照らし合わせると,シラスの含有率を増やすと乾燥密度も比例して増加することから,シラスを黒ぼくに加えると黒ぼくの含水率の高さをすこしは克服できたのではないかと思う。これは,シラスを黒ぼくに加えることの当初の目的を達成している。

        

黒ぼくにおが屑を加えた土について

・おが屑質量混合率とCBRのグラフ(図4)からは,おが屑を加える量を増やしていくと(おが屑(細粒)は0g(写真E),40g(写真J),80g(写真K)というふうに,またおが屑(粗粒)のほうは0g(写真F),60g(写真L),120g(写真M)といったように)わずかだが,CBRは高くなる。おが屑の大きさで比べた場合では,おが屑(粗粒,写真F)よりもおが屑(細粒,写真E)を加えたほうが,CBRの増加は全体的に大きい。これは,細かいほうが土とよくなじみ,土とおが屑間の隙間が小さい,つまりよく締め固まることがいえる。乾燥密度とCBRのグラフ(図5)については,乾燥密度の高低はあまりCBRには関係ないが,やはりおが屑(細粒)を加えた時のCBRのほうが高い。

         

以上@とAの土を貫入量と荷重にまとめたグラフ(図6)からは,グラフの傾きが大きいと大きな荷重に対して小さな貫入量ですむということで,土が荷重に対して強いということがわかる。このことを考慮すると,データが完全にとれなかったものもあったが,シラス100%(写真D)のものと黒ぼくとシラスの比が1:3(シラス75%,写真G)のものが荷重に強い土で使えそうではないかと思う。他のものは,残念ながら使えないだろう。

         
                           図6 荷重−貫入量曲線

研究を終えて

 今回の実験を通してシラスと黒ぼく、おがくずの地盤材料としての特性を知ることができた。シラスのようにある程度強度が期待できるものもあれば、黒ぼくのようにほとんど期待できないものもあったが、今回実験した材料はほんの一部にすぎない。今後さらにあらゆる材料の実験を重ね、環境への負荷等の課題をクリアした上で少しずつ循環型社会を築いていかなければならないと実感した。ひとつひとつの作業は時間と根気を要するものであったが、廃棄物の有効利用という興味深いテーマであったためとても楽しく実験をかさねることができた。この作品を通して私達だけでなくより多くの方が「地盤工学における廃棄物の有効利用」に興味をもってほしいものである。